ユング心理学のタイプ論とは?

ユング心理学解説
MBTI - Myers Briggs Type Indicator is a tool which is frequently used to help individuals understand their own communication preference and how they interact with others, text button on keyboard

SNSで診断結果を4文字のアルファベットで共有する文化は、もはや自己紹介の一部になっています。友人との会話で「私はINFPだから」「あの人はESTJっぽい」といったやり取りをしたことがある人は多いのではないでしょうか。

実はこのブーム、大元をたどるとスイスの精神科医カール・グスタフ・ユングに行き着きます。ユングが1921年に著した『心理学的類型』(タイプ論)こそが、今日のMBTI診断の源流にあたるのです。ただし、後述するようにSNSで広まっている16タイプ診断と、ユング自身が説いた理論との間には、見過ごせない距離があります。この記事では、その原型となった理論を、誤解されやすいポイントとあわせて解説します。

▶ タイプ論とは何か

ユングがこの理論を体系化した背景には、個人的な危機がありました。かつて師と仰いだフロイトと1913年に決別したユングは、フロイトが性衝動を、アルフレッド・アドラーが権力への意志(劣等感の克服)を、それぞれ心の中心に据えて対立する様子を目の当たりにします。同じ人間の心を見ているはずなのに、なぜこれほど解釈が食い違うのか——ユングを突き動かしたのは、この素朴な疑問でした。

たどり着いた答えは、「どちらも間違っていないが、どちらも心の一部分に過ぎない」というものでした。フロイトとアドラーは、同じ心を「外向的な視点」と「内向的な視点」という、異なる構え(態度)から眺めていたに過ぎない。ユングはそう結論づけ、この個人差を体系的に説明するための理論として、タイプ論を打ち立てました。第一次世界大戦と重なる自身の内的混乱の時期を経て世に出されたこの理論は、ユングが自分自身の立ち位置を確立するための格闘の産物でもあったのです。

▶ 二つの構え

内向と外向 タイプ論の土台にあるのが、「外向(Extraversion)」と「内向(Introversion)」という二つの構えです。

ここで注意したいのは、この区別が「社交的かどうか」「人見知りかどうか」という日常的なイメージとは、本来別のものだという点です。ユングが問題にしたのは、心的エネルギー(リビドー)が向かう方向でした。外向型は、興味や関心が自分の外側にある対象——人、物、出来事——へと自然に流れていきます。逆に内向型は、同じ出来事に触れても、関心がまず自分の内側の考えや感情へと向かいます。パーティーで疲れてしまうのが内向型、パーティーで元気を取り戻すのが外向型という説明が広まっていますが、これはこの「エネルギーの向かう先」という定義を分かりやすく言い換えたものです。

そしてユング自身は、人はどちらか一方だけで生きているのではなく、誰もが両方の構えを持ちながら、どちらか一方がより優勢に働いていると考えていました。純粋な外向型も、純粋な内向型も存在しない、というのがユングの立場です。

▶ 四つの心の機能

感覚・直観・思考・感情 内向と外向という「構え」に加えて、ユングはもう一つの軸として、心が情報をどう扱うかという「機能」を4つ提示しました。

まず、情報を「知覚する」機能として、感覚(Sensation)と直観(Intuition)があります。感覚は、五感を通じて「今、ここにある事実」をそのまま捉える働きです。対する直観は、事実の背後にある可能性や全体像を、いわば「ひらめき」として捉える働きです。

次に、知覚した情報を「判断する」機能として、思考(Thinking)と感情(Feeling)があります。思考は、論理と原理原則に基づいて「正しいか誤りか」を判断します。感情は、価値観や関係性に基づいて「好ましいか好ましくないか」を判断します。ここでの「感情」は、いわゆる情緒的な激しさを指す言葉ではなく、価値を判断する一つの機能を指している点に注意が必要です。

感覚と直観、思考と感情は、それぞれが対になっており、一方を強く使っているときは、もう一方は後景に退きます。

この違いは、日常の何気ない場面にもよく現れます。例えば旅行に出かけたとき、感覚型の人は「この店の料理はどんな味か」「この道は何分で着くか」といった、目の前の事実や実感を丁寧に拾い上げます。直観型の人は同じ旅先で、目の前の光景よりも「この街の歴史的な背景」や「次はどこに派生していけそうか」といった、可能性や全体像の方に自然と意識が向かいます。同様に、仕事で問題が起きたとき、思考型の人はまず「何が原因で、筋道として何が正しいか」を整理しようとし、感情型の人はまず「誰がどう感じているか、この場の関係性をどう保つか」を考えます。どちらが優れているという話ではなく、同じ出来事に対する心の「入り口」が違う、というのがユングの見立てです。

この2つの軸(内向・外向 × 4つの機能)を組み合わせることで、ユングは8つの心理学的タイプを描き出しました。ごく簡単に見取り図を示すと、次のようになります。

・外向的思考型:客観的な事実や規則に基づいて、物事を体系立てて整理することに長けたタイプ 

・内向的思考型:外の評価より、自分の内側にある理論的な一貫性や原理を突き詰めるタイプ ・外向的感情型:場の空気や周囲との調和を敏感に読み取り、円滑な関係を築くタイプ 

・内向的感情型:内に秘めた強い価値観を持ちながら、それを外にはあまり表現しないタイプ ・外向的感覚型:今この瞬間の現実的な刺激や実利を、率直に楽しみ味わうタイプ 

・内向的感覚型:外の刺激よりも、それが自分の内側にどう響くか、その質感を静かに味わうタイプ 

・外向的直観型:外の世界に潜む新しい可能性の芽を素早く見つけ出し、次々と展開していくタイプ 

・内向的直観型:集合的無意識の深層でじわじわ進行している変化の気配を、いち早く感じ取るタイプ

これらはあくまで大まかな見取り図であり、ユング自身も「純粋にこの型にぴったり当てはまる人はいない」と考えていた点は、次の節で改めて触れます。

▶ 優越機能と劣等機能——タイプ論とシャドウのつながり

ここがタイプ論の中でも特に興味深い部分です。4つの機能のうち、人が意識の上でもっとも自然に使いこなせるものを「優越機能(主機能)」と呼びます。そして、その正反対に位置する機能は、意識からもっとも遠ざけられ、「劣等機能」として無意識に沈み込みます。例えば「直観」が優越機能として前面に出ている人は、対極にある「感覚」が劣等機能として無意識に追いやられている、という具合です。

ユングはこの構造を、同心円のようなイメージで説明しています。中心にもっとも意識化・分化された主機能があり、そこから少し離れた場所に、主機能を下支えする「補助機能」が控えています。補助機能は、主機能とは異なる系列(知覚か判断か)から選ばれ、主機能だけでは偏りがちなバランスを取る役割を担います。例えば主機能が「思考」であれば、補助機能は感情ではなく、系列の異なる「感覚」か「直観」のどちらかが担うことになります。円の中心から遠ざかるほど未分化な状態になり、もっとも外側、いわば無意識の底に位置するのが劣等機能です。

シャドウについての記事を読んだ方なら、ここに既視感を覚えるかもしれません。劣等機能とは、いわば「機能としてのシャドウ」です。使い慣れた機能に頼りきることで、その正反対の機能は未発達なまま、コンプレックスめいた形で心の奥に沈殿していきます。普段は理屈で物事を割り切る「思考型」の人が、ふとした拍子に不釣り合いなほど感情的になってしまう——こうした場面には、抑圧されてきた劣等機能が顔を出している可能性があるのです。劣等機能は、扱いに不慣れなぶん、一度表に出ると本人でも制御しづらい、やや粗削りな形で噴き出しやすいという特徴があります。

▶ MBTIとの違い 

ここで、冒頭のSNSブームの話に戻ります。現在広く使われている「MBTI」は、キャサリン・クック・ブリッグスとイザベル・ブリッグス・マイヤーズの母娘が、ユングの理論をもとに開発した性格診断ツールです。1940年代に実用化が始まり、ユングの内向・外向、感覚・直観、思考・感情という枠組みに、ユング自身は提示していなかった「判断-知覚(J/P)」という第三の軸を独自に追加し、16タイプへと発展させました。

つまりMBTIは、ユングの理論を土台にしながらも、別の人物たちが独自に体系化し直した派生的なツールです。「MBTI=ユング心理学そのもの」と捉えてしまうと、原典との間にずれが生じます。特に大きな違いは、ユングが「誰もが両方の構えと全ての機能を持ち合わせており、優劣の程度の問題に過ぎない」というグラデーションとしてタイプを捉えていたのに対し、MBTIは人を16の箱のどれかに当てはめる、より固定的な分類として扱われがちだという点です。

▶ 現代科学から見た批判

タイプ論、そしてその派生であるMBTIについて、批判的な視点もあわせて押さえておきます。

まず、MBTI診断は再検査信頼性(同じ人が期間を空けて再受験したときに同じ結果が出るかどうか)の低さが繰り返し指摘されています。数週間後に同じ質問に答えると、4文字のうち少なくとも1文字が変わってしまうケースが珍しくないという報告があり、これは「安定した性格特性」を測るツールとしては大きな弱点です。

次に、集合的無意識の記事でも触れた反証可能性の問題が、ここにも当てはまります。診断結果に自分を当てはめて「言われてみれば思い当たる」と感じる現象は、誰にでも当てはまる曖昧な記述を自分ごととして受け取ってしまう「バーナム効果」で説明できる部分が大きいとされています。

さらに、現代の実証的な性格心理学では、性格は「タイプ(不連続な型)」ではなく「特性(連続的な度合い)」として捉える立場が主流です。代表的なのが、外向性・神経症的傾向・誠実性・調和性・開放性という5つの連続的な軸で性格を記述する「ビッグファイブ」理論です。16の箱に人を分けるMBTI的な発想そのものが、現代の性格心理学の主流とは異なる前提に立っている、という点は知っておく価値があります。

これらの批判は、タイプ論が無意味だということを意味するものではありません。ただし「MBTIで自分のタイプが分かった」ということと、「自分という人間が科学的に解明された」ということは、はっきり区別して受け取る必要があります。

▶ 個性化への接続

では、自分のタイプを知ることには、どんな意味があるのでしょうか。

ユングにとって、タイプ論は人を16種類(あるいは8種類)の箱に分けて安心するための道具ではありませんでした。むしろ、自分がどの機能に頼りすぎているかを自覚し、これまで見過ごしてきた劣等機能——無意識に沈めてきたもう半分の心——と向き合うための地図でした。ユング自身は、自分の主機能を見つけるヒントとして「自分がいつも当たり前のようにやっていることは何か」を問うてみることを勧めています。無理をせず自然にできてしまうこと、そこに主機能が、そしてその裏側に、まだ光の当たっていない劣等機能が潜んでいます。

「自分は感覚型だから直観的なことは苦手」で終わらせるのではなく、その苦手さの奥にある未発達な可能性に目を向けること。ユングの唱えた個性化の道のりとは、得意な機能の中に安住することではなく、苦手としてきた機能もまた自分の一部だと認め、少しずつ統合していく過程だとユングは考えました。診断結果のアルファベット4文字は、旅の地図であって、旅の終着点ではないのです。

あなたが「自分はこういうタイプだ」と思っているその輪郭は、本当にあなたの心のすべてを描けているでしょうか。それとも、まだ光の当たっていない、もう半分の機能が残っているのでしょうか。

■ 関連用語 | 用語 | 一言で言うと |

    | → [内向/外向] | 心的エネルギーが自分の内側と外側のどちらに向かうかという二つの構え |

    | → [四つの心理機能] | 感覚・直観(知覚)と思考・感情(判断)という、心が情報を扱う4つの働き |

    | → [優越機能/劣等機能] | 意識で使いこなせる機能と、その対極にあり無意識に沈む機能 |

    | → [補助機能] | 主機能を下支えする、系列の異なるもう一つの機能 |

    | → [シャドウ(Shadow)] | 劣等機能が沈み込む先。抑圧された、もう一つの人格側面 |

    | → [MBTI] | ユングの理論をもとにブリッグス母娘が開発した、16タイプの性格診断ツール |

    | → [個性化(Individuation)] | 優越機能への偏りを自覚し、劣等機能を含めた全体性へ向かうプロセス |


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